1 はじめに
大雨や洪水などの気象災害から命を守るために、気象の知識と気象警報や注意報などの気象情報の利用の仕方を少しでも知っていただき、ボランティア活動に役立てていただきたい、というのが我々気象台職員の願いです。
上の写真は北海道開発局建設部河川管理課が撮影したもので、2016(平成28)年8月に空知川左岸の南富良野町幾寅地区の堤防が決壊したときの様子です。
大雨によっておこる災害には、土砂災害、浸水害、洪水害があります。平成26年8月22日に室蘭市で浸水害(室蘭民報より転載)、鷹栖町では洪水害(共同通信社ニュースりより転載)が発生し、平成26年8月25日に礼文町で土砂災害(出典不明)が発生しました。
浸水害は、大雨等による地表水の増加に排水が追いつかず、用水路、下水溝などがあふれて氾濫したり、河川の増水や高潮によって排水が阻まれたりして、住宅や田畑が水につかる災害をいいます。内水氾濫と呼ぶこともあります。また、道路や田畑が水につかることを冠水ということもあります。
洪水害は、大雨や融雪などを原因として、河川の流量が異常に増加することによって堤防の浸食や決壊、橋の流出等が起こる災害をいいます。一般的には、堤防の決壊や河川の水が堤防を越えたりすることにより起こる氾濫を洪水と呼んでいます。
土砂災害は、すさまじい破壊力をもつ土砂が、一瞬にして多くの人命や住宅などの財産を奪ってしまう恐ろしい災害です。山腹や川底の石や土砂が集中豪雨などによって一気に下流へと押し流される現象を土石流といいます。また、山の斜面や自然の急傾斜の崖、人工的な造成による斜面が突然崩れ落ちることを崖崩れといいます。
どんなときに大雨になるのか。台風や前線、積乱雲はどんな悪さをするのか知っていますか。「彼を知り、己を知れば百戦危うからず」と言われます。大雨についても自分や周囲に付いての情勢をしっかり把握していれば、危険を避けることができます。
大雨になる公式は「前線+台風=大雨」です。北海道に前線が停滞しているところに南から台風(熱帯性低気圧)が北上してくると、台風の周辺から水蒸気を多量に含んだ暖かく湿った空気が送り込まれて前線の活動が活発になります。前線による雨と、その後の台風本体による雨雲により長時間大雨が続くことになります。
1-1 台風の定義
熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼びますが、このうち北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17m/s(34ノット、風力8)以上のものを「台風」と呼びます。
台風は上空の風に流されて動き、また地球の自転の影響で北へ向かう性質を持っています。そのため、通常東風が吹いている低緯度では台風は西へ流されながら次第に北上し、上空で強い西風(偏西風)が吹いている中・高緯度に来ると台風は速い速度で北東へ進みます。
台風は暖かい海面から供給された水蒸気が凝結して雲粒になるときに放出される熱をエネルギーとして発達します。しかし、移動する際に海面や地上との摩擦により絶えずエネルギーを失っており、仮にエネルギーの供給がなくなれば2~3日で消滅してしまいます。また、日本付近に接近すると上空に寒気が流れ込むようになり、次第に台風本来の性質を失って「温帯低気圧」に変わります。あるいは、熱エネルギーの供給が少なくなり衰えて「熱帯低気圧」に変わることもあります。上陸した台風が急速に衰えるのは水蒸気の供給が絶たれ、さらに陸地の摩擦によりエネルギーが失われるからです。
強さの階級分け
階級 | 最大風速(10分間平均) |
---|---|
強い | 33m/S(64ノット)~44m/S(85ノット)未満 |
非常に強い | 44m/S(85ノット)~54m/S(105ノット)未満 |
猛烈な | 544m/S(105ノット)以上 |
大きさの階級分け
階級 | 風速15m/s以上の半径 |
---|---|
大型(大きい) | 300km以上~800km未満 |
超大型(非常に大きい) | 800km以上 |
台風の発生数と日本への接近・上陸数(平年値)
北海道への台風接近数風(平年値)
例年、北海道に接近する台風の数は年間1.8個、月別では8月と9月が0.7個です(北海道に上陸するのは稀です)。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 年間 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.1 | 0.2 | 0.7 | 0.7 | 0.1 | 1.8 |
1-2 例年の台風の経路と特徴
台風は、地球の自転の影響で北へ向かう性質があります。また、低緯度では貿易風により西へ向かい、中・高緯度では偏西風の影響を受けて進路を東へ変えます。太平洋高気圧の張り出しや偏西風の強さは経路によって変化するため、台風の経路(進み方)は発生する時期により異なります。
台風の月別の主な進路 台風の経路に及ぼす主な要因
1-3 台風の留意点
・ 気象要素に関する留意点
大雨(浸水、洪水、土砂災害)、防雨風、高波、高潮など。
左から1枚目と2枚目は2016(平成28)年の台風16号に伴う洪水と土砂災害の状況(室蘭開発建設部の撮影)。右端は2004(平成16)年の台風18号に伴う波浪で道路の落橋被害(北海道開発建設部の撮影)の様子。
・ 進路や移動速度に関する留意点
北海道に近づく台風は、上空の偏西風により急速に速度を速めるために天気が急変しやすい。
・ 台風の進行方向に関する留意点
台風の進行方向の右(東)側では、台風の移動速度と台風に向かう風が合わさるため、風や波が進行方向の左(西)側に比べ強まりやすい。また、暖かく湿った空気が吹き付けるため、「高波」「高潮」「大雨」にも注意が必要となる。
1-4 1981年56水害
昭和56年8月3~6日に北海道上に前線が停滞しました。関東南東海上の台風12号から暖かく湿った空気が流入し、長時間に渡って前線が活発化して大雨となりました。
台風12号と前線による大雨が続き、石狩川流域で大規模な氾濫が発生し、道内の死者8名、負傷者14名、被害総額約2700億円となりました。
写真は左上から、石狩放水路緊急暫定通水(札幌河川事務所の撮影)、北広島市街の浸水状況(北海道開発建設部の撮影)、江別市東野幌付近での千歳川の氾濫(石狩川開発建設部の撮影)の様子です。
1-5 2016年8月の台風災害
台風の中心が、北海道・本州・四国・九州の海岸に達した場合を「上陸」、半島や島を横切って再び海上へ出る場合は「通過」、海岸線から半径300km以内に入った場合を「接近」と表現しています。
北海道に一度に3個の台風が上陸したのは、1951年の統計開始以来初めての記録でした。
〇 台風5号
9日に北海道の南東海上を北東へ進む。
〇 台風6号(接近)
15日に根室半島付近に上陸後北海道を
縦断。
〇 台風7号(上陸)
17日に襟裳岬付近に上陸後北海道を縦
断。
〇 台風11号(上陸)
21日に釧路市付近に上陸後オホーツク
海へ。
〇 台風9号(上陸)
23日新ひだか町付近に上陸後オホーツ
ク海へ。
〇 台風10号(接近)
30日に東北地方を縦断して奥尻島付近の海上へ。
8月20日から23日の降水量合計
21日朝に台風11号は東北地方の太平洋沿岸部に接近し、21日23時過ぎに釧路市付近に上陸し、オホーツク海で温帯低気圧に変わった。一方、台風9号は発達しながら日本の南を北上し、22日12時半頃に館山市付近に上陸しました。
その後、関東地方・東北地方を縦断して23日6時頃、日高地方新ひだか町付近に再上陸、オホーツク海で温帯低気圧に変わりました。道内の広い範囲で200mm以上の降水量となりました。