はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第18章 気象災害

2018(平成30)年12月19日、札幌市医師会館で5階東ホールで開催された社会福祉協議会災害ボランティアフォローアップ研修で、札幌管区気象台気象防災部予報課の渡部寛幸予報官の講演「大雨や洪水の気象災害について」より「気象災害」の要約です。

1 はじめに

大雨や洪水などの気象災害から命を守るために、気象の知識と気象警報や注意報などの気象情報の利用の仕方を少しでも知っていただき、ボランティア活動に役立てていただきたい、というのが我々気象台職員の願いです。

上の写真は北海道開発局建設部河川管理課が撮影したもので、2016(平成28)年8月に空知川左岸の南富良野町幾寅地区の堤防が決壊したときの様子です。

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大雨によっておこる災害には、土砂災害、浸水害、洪水害があります。平成26年8月22日に室蘭市で浸水害(室蘭民報より転載)、鷹栖町では洪水害(共同通信社ニュースりより転載)が発生し、平成26年8月25日に礼文町で土砂災害(出典不明)が発生しました。

浸水害は、大雨等による地表水の増加に排水が追いつかず、用水路、下水溝などがあふれて氾濫したり、河川の増水や高潮によって排水が阻まれたりして、住宅や田畑が水につかる災害をいいます。内水氾濫と呼ぶこともあります。また、道路や田畑が水につかることを冠水ということもあります。

洪水害は、大雨や融雪などを原因として、河川の流量が異常に増加することによって堤防の浸食や決壊、橋の流出等が起こる災害をいいます。一般的には、堤防の決壊や河川の水が堤防を越えたりすることにより起こる氾濫を洪水と呼んでいます。

土砂災害は、すさまじい破壊力をもつ土砂が、一瞬にして多くの人命や住宅などの財産を奪ってしまう恐ろしい災害です。山腹や川底の石や土砂が集中豪雨などによって一気に下流へと押し流される現象を土石流といいます。また、山の斜面や自然の急傾斜の崖、人工的な造成による斜面が突然崩れ落ちることを崖崩れといいます。

どんなときに大雨になるのか。台風や前線、積乱雲はどんな悪さをするのか知っていますか。「彼を知り、己を知れば百戦危うからず」と言われます。大雨についても自分や周囲に付いての情勢をしっかり把握していれば、危険を避けることができます。

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大雨になる公式は「前線+台風=大雨」です。北海道に前線が停滞しているところに南から台風(熱帯性低気圧)が北上してくると、台風の周辺から水蒸気を多量に含んだ暖かく湿った空気が送り込まれて前線の活動が活発になります。前線による雨と、その後の台風本体による雨雲により長時間大雨が続くことになります。

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 1-1 台風の定義

熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼びますが、このうち北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17m/s(34ノット、風力8)以上のものを「台風」と呼びます。

台風は上空の風に流されて動き、また地球の自転の影響で北へ向かう性質を持っています。そのため、通常東風が吹いている低緯度では台風は西へ流されながら次第に北上し、上空で強い西風(偏西風)が吹いている中・高緯度に来ると台風は速い速度で北東へ進みます。

台風は暖かい海面から供給された水蒸気が凝結して雲粒になるときに放出される熱をエネルギーとして発達します。しかし、移動する際に海面や地上との摩擦により絶えずエネルギーを失っており、仮にエネルギーの供給がなくなれば2~3日で消滅してしまいます。また、日本付近に接近すると上空に寒気が流れ込むようになり、次第に台風本来の性質を失って「温帯低気圧」に変わります。あるいは、熱エネルギーの供給が少なくなり衰えて「熱帯低気圧」に変わることもあります。上陸した台風が急速に衰えるのは水蒸気の供給が絶たれ、さらに陸地の摩擦によりエネルギーが失われるからです。

強さの階級分け

階級最大風速(10分間平均)
強い33m/S(64ノット)~44m/S(85ノット)未満
非常に強い44m/S(85ノット)~54m/S(105ノット)未満
猛烈な544m/S(105ノット)以上

大きさの階級分け

階級風速15m/s以上の半径
大型(大きい)300km以上~800km未満
超大型(非常に大きい)800km以上

台風の発生数と日本への接近・上陸数(平年値)

北海道への台風接近数風(平年値)

例年、北海道に接近する台風の数は年間1.8個、月別では8月と9月が0.7個です(北海道に上陸するのは稀です)。

1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月年間
0.10.20.70.70.11.8

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 1-2 例年の台風の経路と特徴

台風は、地球の自転の影響で北へ向かう性質があります。また、低緯度では貿易風により西へ向かい、中・高緯度では偏西風の影響を受けて進路を東へ変えます。太平洋高気圧の張り出しや偏西風の強さは経路によって変化するため、台風の経路(進み方)は発生する時期により異なります。

     台風の月別の主な進路        台風の経路に及ぼす主な要因

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 1-3 台風の留意点

・ 気象要素に関する留意点

大雨(浸水、洪水、土砂災害)、防雨風、高波、高潮など。

左から1枚目と2枚目は2016(平成28)年の台風16号に伴う洪水と土砂災害の状況(室蘭開発建設部の撮影)。右端は2004(平成16)年の台風18号に伴う波浪で道路の落橋被害(北海道開発建設部の撮影)の様子。

・ 進路や移動速度に関する留意点

北海道に近づく台風は、上空の偏西風により急速に速度を速めるために天気が急変しやすい。

・ 台風の進行方向に関する留意点

台風の進行方向の右(東)側では、台風の移動速度と台風に向かう風が合わさるため、風や波が進行方向の左(西)側に比べ強まりやすい。また、暖かく湿った空気が吹き付けるため、「高波」「高潮」「大雨」にも注意が必要となる。

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 1-4 1981年56水害

昭和56年8月3~6日に北海道上に前線が停滞しました。関東南東海上の台風12号から暖かく湿った空気が流入し、長時間に渡って前線が活発化して大雨となりました。

台風12号と前線による大雨が続き、石狩川流域で大規模な氾濫が発生し、道内の死者8名、負傷者14名、被害総額約2700億円となりました。

写真は左上から、石狩放水路緊急暫定通水(札幌河川事務所の撮影)、北広島市街の浸水状況(北海道開発建設部の撮影)、江別市東野幌付近での千歳川の氾濫(石狩川開発建設部の撮影)の様子です。

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 1-5 2016年8月の台風災害

台風の中心が、北海道・本州・四国・九州の海岸に達した場合を「上陸」、半島や島を横切って再び海上へ出る場合は「通過」、海岸線から半径300km以内に入った場合を「接近」と表現しています。

北海道に一度に3個の台風が上陸したのは、1951年の統計開始以来初めての記録でした。

〇 台風5号
  9日に北海道の南東海上を北東へ進む。
〇 台風6号(接近)
  15日に根室半島付近に上陸後北海道を
 縦断。
〇 台風7号(上陸)
  17日に襟裳岬付近に上陸後北海道を縦
 断。
〇 台風11号(上陸)
  21日に釧路市付近に上陸後オホーツク
 海へ。
〇 台風9号(上陸)
  23日新ひだか町付近に上陸後オホーツ
 ク海へ。
〇 台風10号(接近)
  30日に東北地方を縦断して奥尻島付近の海上へ。

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8月20日から23日の降水量合計

21日朝に台風11号は東北地方の太平洋沿岸部に接近し、21日23時過ぎに釧路市付近に上陸し、オホーツク海で温帯低気圧に変わった。一方、台風9号は発達しながら日本の南を北上し、22日12時半頃に館山市付近に上陸しました。

その後、関東地方・東北地方を縦断して23日6時頃、日高地方新ひだか町付近に再上陸、オホーツク海で温帯低気圧に変わりました。道内の広い範囲で200mm以上の降水量となりました。

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2 集中豪雨

集中豪雨とは、狭い範囲に数時間にわたり強く降り、100mmから数百mmの雨量をもたらす雨を指します。積乱雲が同じ場所で次々と発生・発達または侵入を繰り返すことによる起こります

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 2-1 線状降水帯

線状降水帯は、範囲は広くないが大きな災害をもたらす大雨です。次々と発達する雨雲(積乱雲)が列をなして組織化した積乱雲群により、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水を伴う雨域です。


         広島県で発生した線状降水帯のレーダーエコー

線状降水帯の多くは暖候気に発生し、特に前線や台風の周辺にできやすいのですが、天気図上には明確に現れないことが多いのです。孤立した積乱雲が積乱雲群れを形成し、さらに複数の積乱雲群が連なって線状降水帯ができます。

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 2-2 2014年9月11日の特別警報

北海道の西にある動きの遅い低気圧に向かって南から暖かく湿った空気が入り、上空約5500mにある氷点下15度以下の換気流入で、大気の状態が非常に不安定となりました。

石狩・胆振地方を中心に床上・床下浸水、土砂崩れなど大きな災害が発生しました。

12の市町村で非難勧告が発令され、国道や道道の通行止め、JRや航空機の運休が発生しました。

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3 危険から身を守るために

 3-1 札幌の危険場所

札幌市は区毎の、洪水ハザードマップと地震防災マップを発行しています。平成24年3月に一部改訂された洪水ハザードマップには、過去の浸水実績に基づいて新たに内水氾濫危険区域が表示されました。

内水は、堤防内の土地、建物、道路など(町の中)に降った雨を指します。内水氾濫(うちみずはんらん)とは、大雨などの影響で下水道、側溝、排水路などが雨を処理しきれず水はけが悪化し、土地、建物、道路などが水浸しになる現象です。

内水氾濫の原因は、降雨量が各地域の雨水の処理容量を超えることです。内水氾濫の原因を分析すると、各地域の雨水の処理容量不足もありますが、雨水を処理する側溝などに落ち葉、土、石などが詰まって本来の処理能力が十分に発揮できないことも原因になっていることが分かります。

自分の家の周りの側溝などを定期的に掃除しておくことで、自宅周辺や地域の内水氾濫を予防する一助になります。内水氾濫の防止対策は、流域内で積極的に雨水の貯留と浸透をはかることです。流すのではなくて「溜める・しみ込ませる」 が基本となります。

一方、外水(そとみず)は河川(堤防の外側)を流れる水を指します。外水氾濫や河川氾濫は、大雨の影響により河川の水位が上昇して堤防の高さを越えたり、堤防が決壊したりして水が勢いよく溢れ出す現象です。

日常的にハザードマップを見るようにしましょう。実際の洪水では規定通りの浸水になるとは限りませんし、ハザードマップで色のついていないところでも浸水の可能性があります。周囲の状況に注意して行動しましょう。

ハザードマップを利用する際に一番注しなければならないことは、相手は何が起きても不思議でない自然であるということです。ハザードマップで浸水しない、土砂崩れは起きない=安全と思い込むことは大きな落とし穴です。

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 3-2 生き抜くために必要なこと

気象情報の意味や利用の仕方をしっていますか。正しい避難の仕方を知っていますか。最後の最後に大事なことを知っていますか。

〇 特別警報と警報・注意報の種類

特別警報警報注意報対象とする現象や災害
大雨(浸水)大雨(浸水)大雨(浸水)大雨による低い土地への浸水
(浸水)(浸水)(浸水)土石流・がけ崩れの土砂災害
  暴風  暴風  暴風暴風又は強風
  暴風雪  暴風雪  風雪雪を伴うB峰風又は強風、交通障害
  大雪  大雪  大雪大雪、交通障害
  高潮  高潮  高潮台風等による海面の上昇
  波浪  波浪  波浪高波(高浪、うねり)
   /  洪水  洪水河川の増水、氾濫

この他に注意報には、雷、濃霧、低温、着雪、乾燥、なだれ、着氷、融雪、霜注意報があります。

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〇 防災気象情報の段階的な発表

切迫度の高まりに合わせて段階的に発表されます。

※1 土砂災害の危険度が非常に高まったときは、都道府県と共同で「土砂災害系かき
  警報」を発表します。

※2 数年に一度の猛烈な雨を観測した場合には、「記録的短時間大雨情報」を発表し
  ます。

※3 防災上重要な河川で洪水の恐れがあるときは、国交省または都道府県と共同で
  「指定河川洪水予報」を発表します。

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〇 気象情報と求められる行動

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〇 いき抜くためにどう行動するか

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〇 危険が迫っていることを知る

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〇 何が起きているかをイメージする

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〇 大雨が始まったら

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〇 身の危険を感じたら

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 3-3 避難行動

① 立ち退き避難(水平避難)

ハザードマップなどに示された指定緊急避難場所へ移動する。

災害が切迫した状況では、近隣のより安全な場所、より安全な建物等への避難(緊急的な避難場所への避難)

② 屋内での安全確保措置(翠帳避難・待機)

外出することすら危険な場合は、屋内でもより安全な場所へ移動する。

例えば、膝のあたりまで浸水したとき、あるいは移動困難な高齢者の方の移動はかえって危険を伴います。命を守る緊急的手段として屋内の二階以上の、安全を確保できる高さに移動する方が安全な場合もあります。

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 3-4 なぜ人は逃げないのか

① 正常性バイアス

バイアスは、心理学的に「偏見」「先入観」などと定義されています。

多少の異常事態が起こっても、それを正常の範囲内としてとらえて心身を平静に保とうとする働きです。この働きは、人間が日々の生活を送る中で生じる様々な小さな変化や出来事に心が過剰に反応し、疲弊しないために必要な働きです。

この働きの度が過ぎてしまうと本当に危険な場合、避難勧告が発令されている非常事態の際もそれを異常と認識せず、避難などの対応が遅れてしまいます。

② 多数派同調バイアス

どうして良いか分からないときは、他の人と同じ行動をとることで乗り越えてきた経験、つまり迷ったときは周囲の人の動きをさぐりながら同じ行動をとることが安全とする心の働きです。
          

徳島県鳴門市は「率先避難者」を任命し、地域全体で避難する取り組みを行っているそうです。

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 3-5 難から逃れる

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 3-6 命を守るために

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文中に掲載しました表示のない写真やイラスト類は、講演のレジメから転載させていただきました。ありがとうございます。